STAFF INTERVIEW

ものづくり ✖︎ クライミング

ウォール施工・大和田巧

幼少の頃から「ものづくり」と「スポーツ」が大好きだったという大和田。大学では木工彫刻を学び、いくつかのものづくりの仕事で経験を重ねた後、大好きなクライミングに関わりたいという思いから、現在はホッチホールドで「壁建て(クライミング・ウォールの施工)」の仕事をしています。大好きな「ものづくり」と「クライミング」を両立するまでの経緯や、「クライミング・ウォールを作る側」の視点から、現在の仕事について話を聞きました。

クライミングとの出会い

テニス、野球、サッカー、卓球、水泳、バドミントン、etc…。大和田は、子供の頃からいろいろな競技に挑戦してきました。中でもテニスは小学校低学年の頃からずっと、真剣に取り組んできたスポーツです。

テニスは特に真剣にやってました。でも、大学の時に肩を脱臼したんです。手術をして直したんですが、またいつ抜けるか分からないという恐怖感があって。テニスを全力でできない分、何か別のスポーツを並行してやろうかなと考えるようになりました。

そんな大和田にとってクライミングとの出会いは、大学のキャンパスでした。

クライミングは、父親がやっていました。それでもともと興味はあったんですが、通っていた大学にはキャンパスの中にクライミング・ウォールがあったんです。空いた時間に何人かで集まって登っているうちに、すっかりハマってしまいました。大学3年の時には新しい体育館ができて、もっと充実したウォールができたので、卒業までずっと体育館に籠もって登ってました。

いろいろなスポーツを経験した大和田ですが、クライミングには他と違う魅力があったと話します。

クライミングは、登れた時の達成感がすごく気持ち良くて。登る課題ごとに難易度が設定されていて、それを登れるか登れないか。結果は二つに一つしかないから分かりやすいじゃないですか。ある日登れなかった課題があって、数日経って筋肉痛が直った頃にもう一度挑戦すると、前回よりも上達した自分が実感できて、登れたりする。この時の達成感は他のスポーツでは感じたことがなかったです。

ひとりで手軽にできるという特徴や、繰り返し取り組むことでちゃんと上達する面も、性に合っていたようです。

他のスポーツもそれなりに面白かったし、上達したと思います。ただ、自分の上達が分かりにくい部分もありますよね。チームプレーだと、いろいろな要素が混ざり合うので、上達を実感するのに時間がかかる印象です。それからクライミングの場合、ジムに行けば一人で気軽に練習できるし、何より自分の技術を磨いていく過程が面白い。本当に細かい部分でちょっとずつなんですが、でも確実に上手くなっているのが分かるというのが、自分には合っていました。

大和田がクライミングについて話す言葉は、彼が生業としてきた「ものづくり」の仕事に対する姿勢にも共通する部分があります。

ものづくりの仕事

クライミングに打ち込んだ大学時代が終わり、大和田は海上自衛隊に入隊します。自衛隊では「ものづくり」の仕事を任されます。

子供の頃からモノを作るのが好きで、大学時代は「木工彫刻」を専攻していました。就職の時は特に「ものづくり」を意識していたわけじゃないんですが、入隊後の適性検査で、「応急工作員」という職種として配属されることになったんです。

海上自衛隊なので、一度任務に就くとしばらくは船上生活です。大人数の隊員が船の中で生活するから、いろいろなことが出てくるんですよね。何かが壊れたり、ちょっとしたものが必要になったり。特別なものでない限りは、船の中にあるもので直したり、改造したり、作ったりするんです。限られた資材の中で作らなくちゃならないから、けっこう工夫が必要で、勉強になりました。

しかし、プライベートが限定される船上生活が続くと、「やりたいことができない」ことにストレスを感じるようになります。

一度海に出たら、どこにも出かけられないですから。見渡す限り海。携帯の電波も入りません。だから、たまには外食したいとか、映画館に行きたいとか、そういう我慢はいろいろあるんですよね。でも僕の場合は、とにかくどうしてもクライミングがしたくて。趣味としてクライミングが続けられるような環境に戻りたくて、転職を考え始めました。

縁があって転職したのは、ミュージックビデオで使用するセットや、店舗の内装などを幅広く手掛ける施工会社でした。

テレビやミュージックビデオで使うセットって、見た目的にとても凝ったものを作るんです。店舗の内装やショーウィンドウなんかもそうで、色合いや質感までこだわって、細部まで作り込んでいく。いろいろな素材や道具を使って細かい作業をするのがもともと好きなんで、やっていてすごく楽しかったです。

船を下りてからは、大好きだったクライミングも再開しました。当時の仕事に不満はなかったものの、次の転職のきっかけもまた、クライミングでした。

「クライミング」と「ものづくり」、好きなことを両立

大学の先輩と岩場を登った帰り道だったんですけど、クライミングの話題の中でふと、近所にクライミング・ジムがオープンすることを聞いたんです。スタッフも募集しているって。そこだったら、毎日クライミングができるなぁと考えて、すぐに応募してしまいました。

ジムに勤めてからは、インストラクターとして接客を担当。大和田にとってこの間は、「ものづくり」から離れた初めての時間でした。しかし数年後、新たな転機が訪れました。ジムのオーナーから「壁建て」、つまり「クライミング・ウォール」の施工をする会社のことを聞きました。

それまで、そういう考えがなかったんです。「クライミング」と、「ものづくり」の、自分にとって好きなこと・得意なことが合わさったような仕事って。「壁建て(クライミング・ウォールの施工)」の仕事だったら、「クライミング」に直接関わりながら、「ものづくり」もできるし、これは天職かもしれないって思いました。

ウォールの施工に活かされる、ものづくりの経験

「壁建て(クライミング・ウォールの施工)」は、大和田のこれまでの「ものづくり」の仕事の中でも特に自分に合ったものでした。

3Dで緻密に設計をするから、傾斜や壁のつなぎ目とか、理論上はピッタリと収まるように計画されているんです。でも、どうしてもズレてしまうところがある。そこは、職人がいろいろと工夫してピッタリつなぎ合わせるわけですが、そのミリ単位以下の調整が、自分の性分にとても合っているなと、改めて思いました。自分で言うのも変ですけど、もともと几帳面で細かい性分なんで。その細かい部分を自分の手で正確に作り込んでいくことに、楽しみを感じています。

これまでのものづくりと、「壁建て」の違いについて聞いてみました。

以前やっていた「ものづくり」は、正解がない部分がありました。船の上の工作物は、用途を満たせば構造やデザインは問いません。逆に、ミュージックビデオのセットでは、デザインを満たせば構造や材質はあまり重要じゃなかったりします。用途やデザインには明確な正解というものがなくて、正解を探りながら作る部分がある。一方の「壁建て」は、図面通りに強度の高い壁を作ることが全てで、正解が明確です。その中で職人それぞれが、経験といろいろな工夫でクオリティを上げていく。

一方で、これまで携わってきたものづくりの経験も、今の仕事に活きていると言います。

以前の仕事のように、正解を模索するなかに工夫が必要な場合と、ある正解に向けてその品質をあげるための工夫という違いはありますが、工夫を重ねて良いものを作るというプロセスは同じだと思います。少しやり方を変えてみるとか、部材の使い方を変えてみるとか。

これまでいろいろなものづくりを経験し、品質向上のための技術と工夫の仕方を磨いてきました。大和田の経験は、ホッチホールドのウォールの品質を支えています。

数ヶ月家に帰れないことも。現在の仕事について。

最後に、現在の仕事について話を聞きました。

現場の仕事なんで、忙しい年は年間300日くらいホテル住まいだったこともありました。ジムでの施工だと大体10日から2週間くらいはかかるし、大きな現場だと2ヵ月近くになったりします。現場から現場へ直行することもあるから、数ヶ月家に帰れないこともあります。

なかなか自宅に帰れない。そういった環境で特に困ることは何か、聞いてみました。

衣替えの季節とか、ちょっと困りますね。気がついたら秋で、そろそろ半袖が欲しいな、とか。あと、家賃がもったいない。以前は東京に部屋を借りていたんだけど、ほとんど家に居ないのに高い家賃がかかるのが不満で、最近埼玉の方に引っ越しました。

「でも…」と、大和田は続けます。

(自衛隊での)海の上の生活に比べたら、ぜんぜん苦じゃないです。全国各地に行けるから、普段行けないジムに行ったり。日曜日は基本的に休みにするので、ちょっと観光したりとか。外食もできるし、映画も観れます。

大和田の経験は、こうした面にも活きています。

クライミング業界は、これから一段と競争が激しくなってくると思います。日本のクライミング界を引っ張っていくのは「ホッチホールド」と言われる会社になって欲しいです。そのために職人として、より良いものづくりができるよう、頑張りたいと思っています。

「ものづくり」と「クライミング」。好きなことを両立した大和田の仕事ぶりとその経験は、ホッチホールドを支える企業価値のひとつになっています。