STAFF INTERVIEW

クライマーだからこそできる仕事

設計施工・長島 昌木

幼少期より登山に親しんだ長島は、生粋の山男です。大学山岳部に入ってからは、アルパインクライミングを志向し、国内外の山岳でクライミングを続けてきました。山やクライミングに関わる仕事がしたいという思いで、2016年にホッチホールドへ入社しました。子供の頃からの山行、アルパイン・クライミング、そしてホッチホールドでの業務について話を聞きました。

父と登り始めた山

4歳の時、初めて登った山が富士山。5歳の時、西穂高岳に登頂。幼少期から、長島は夢中で山に登りました。

(長島)父が山が好きで。物心つく前からキャンプや山に親しんでいました。小学校に入る前から、いろいろな山に連れて行ってもらいました。小学校に入ると、自分で計画を立てるようになって。4年生か5年生の頃に、穂高の大キレットを1週間かけて縦走しました。もちろん父に一緒に来てもらうんですが。

槍ヶ岳から北穂高に連なる稜線を縦走する穂高大キレット。一般ルートの中では難易度が高く、小学生にはあまり向かない山行です。

(長島)登山に関しては子供の頃から本当に自由にやらせてもらいました。大キレットに行きたいと行っても、ああそうかという程度で否定するようなこともなく、一緒に歩いてくれて。今考えてみると、大キレットを小学生が歩いていたらちょっと目を引くかもしれませんね。とにかく山が好きで、アウトドアが好きで、中学・高校も山岳部に入りました。

小学生の頃に始めたボーイスカウトも、長島の登山好きに拍車をかけました。

(長島)ボーイスカウトって、キャンプに行ったりハイキングに行ったり、基本的にアウトドアが多かったから、自分の趣向とも合って。高校生になると、ボーイスカウトには「プロジェクト制度」というものがあるんです。これは自分の登山の経験を活かして楽しめるなって、さらに登山に打ち込んでいきました。

ボーイスカウトは、子どもたち自身が綿密に計画を立てて実行し評価するそのプロセスを「プロジェクト制度」としてその活動の中心に取り入れています。一連のプロセスの中で、子供の自発的な成長を促すのが狙いです。高校生年代になると、取り組むプロジェクトも高度なものになり、チャレンジの幅も広がります。長島はそのボーイスカウトのプロジェクトの中に、自身が志向する登山を取り入れて行きました。

高校に入ってすぐの頃、ボーイスカウトのプロジェクトとしてハセツネ(長谷川恒男カップ)に参加しました。ハセツネ(長谷川恒男カップ)は、日本山岳耐久レースの別称で、日本で最も有名なトレイル・ランニングのレースです。参加資格は高校生以上。高校1年生で参加した長島は、この大会で最年少完走、10代の部優勝を果たします。

(長島)高校生になると一人で山に行けるようになって、どんどん登りました。トレイル・ランニングのレースにもいくつか参加しました。ボーイスカウトの活動としてやれたことも、後押しになりました。

大学山岳部で、クライミングを始める

大学に入学後はもちろん山岳部に入り、毎週末、山。平日も時折、山。そんな生活が続きます。

(長島)山岳部で、クライミングを始めました。国内外たくさんの山に登りました。

大学の山岳部では、一般ルートではない山行、アルパインを志向するのが常です。ギリギリのところを攻めるような、そんな山行に何度となくチャレンジしました。大学時代、特に記憶に残るクライミングについて質問しました。

(長島)どの経験も素晴らしく、記憶に残っているので。ひとつを選ぶのは難しいですが。あえてひとつ選ぶとしたら、これは失敗談になっちゃうんですが、ケニア山で落ちたことですかね。

クライミング中の滑落。素人にはぞっとするような話です。大学卒業のタイミングで、長島はパートナーと二人でケニア山に挑みました。

(長島)これも、ボーイスカウトのプロジェクトとして行ったんです。福岡の仲間と一緒に。そしたら落ちちゃって。

登った岩壁は、全体で600mほどの高さだったと言います。そのうち、100mくらい登ったところのピッチで、事故が起きてしまいました。

(長島)途中、プロテクションが取れないまま登ってしまったのが原因でした。6mくらいですかね。

6m滑落した長島は、そのピッチの足場でなんとか踏みとどまりました。これが、もっと高く登っていたり、あるいはこの足場で止まらずに100m下まで落ちていたら、命を落としていたと話します。怪我をした長島は衛星電話で助けを呼び、ヘリコプターが来てくれました。

(長島)すぐ近くまで来てくれたんですけど、岩壁には寄せられないので。レスキューの方が下から100m登ってきてくれて、降ろしてくれました。一緒に登った仲間も無事でした。

このときは失敗に終わりましたが、長島は去年(2018年)再びケニア山に赴き、登頂を果たしました。同じ年、スイスを代表する山、アイガーへも。

(長島)アイガーは、ミッテルレギ稜という稜線でした。大学山岳部の先輩が初登したルートだったんです。下山中に道に迷って一泊ビバーグしましたけど、概ね順調な山行でした。

ケニア山での事故の経験が、次の挑戦を躊躇させるようなことはありませんか、という意地悪な質問をしてみました。

(長島)世界的に有名で経験豊富なクライマーでも、単純なミスで怪我をすることがあります。クライマーなら、誰にも一度や二度はあることですから。堀地社長のような天才肌のクライマーは、落ちたりしないのかもしれませんけど。

長島の、登山とアルパイン・クライミングへの情熱は、陰ることを知りません。今年(2019年)の夏には、フリー・クライミング発祥の地、聖地と言われるヨセミテに行く計画です。

(長島)堀地社長の時代から考えると、アルパイン・クライミングとフリー・クライミングは、立場が逆転したようなところがあります。今はもうフリー・クライミングをやるクライマーの方が圧倒的に多いけれど、僕としてはアルパイン・クライミング、冒険的な登山を志向していきたいと思っています。

登山やクライミングの魅力について

登山やクライミングを経験することで得られるものや、面白さについて聞いてみました。

(長島)山に行ったら、途中でリタイアできないですよね。自分の力で、生きて戻らないといけない。クライミングについても同じで、難しい状況(体制)になってしまっても、自分の力でどうにか打開する他ない。そうした状況に身を置くことが、人の強さを育てるという部分はあると思います。

(長島)クライミングに関しては、どう考えても登れないと思う課題も、練習することで必ず登れるようになります。ホールドの掴み方、体の動かし方など、力や技を磨いた分だけ、難しいことができるようになる。その過程を経験することで、クライミングの本当の面白さが分かる。

長島は、続けることが大事なスポーツだとも言います。しばらく登っていないと、また登れなくなる。続けていれば登れる。登山もクライミングも、続けていれば上手くなるし、楽しくなる、続けることこそが面白いところだと、話してくれました。

東京オリンピックの見どころ

来年(2020年)の東京オリンピック、クライミング競技で楽しみにしていることはありますか?という質問をしました。

(長島)応援したいのは楢﨑 智亜 選手です。今回のオリンピックは、リード、スピード、ボルダリングの三種目で競いますから、各種目バランスの取れている楢崎選手は強さを発揮できるのではと期待しています。

一方、楢崎選手のライバルとして長島が挙げるのが、チェコ出身のアダム・オンドラ選手です。

(長島)アダム・オンドラ選手は、近年は外の岩のクライミングが中心で、競技にあまり参加していなかったんですよね。それが今年になって競技クライミングに積極的に参加するようになった。しかも強さがケタ違いなんです。彼がどんなクライミングをするのかも、楽しみです。

競技そのもの以外に、長島たちクライマーにとっては違った側面での期待もあると言います。

(長島)オリンピックを契機に、クライミング全般に対する理解が深まると良いなって。クライミングの良さが広く理解されて、面白さを感じながら取り組んでくれる人が増えると嬉しいですし。岩場のクライミングだって、私有地を使わせてもらうこともあります。クライミングに対する理解がないと、登れる岩も減ってきてしまいますから。

登山家・クライマーとしての、長島らしいコメントでした。

クライミングウォールの施工は、クライマーにしかできない

(長島)就職先を探していたとき、登山・クライミングに関わる仕事に就きたいと思っていました。でも、山岳ガイドとか、山小屋業とかだと、少し近すぎる気がしていました。縁があって堀地社長に声をかけて頂きました。登山・クライミングに対する理解があるという点が大きかったです。

長島は現在、3DCADによるウォールの設計から、現場での施工まで、幅広い仕事を任せれています。ウォールの設計・施工の業務で、心がけていることを聞きました。

(長島)ジムや施設の、空間全体のことを考慮して、壁の形状を考えます。お客様からは、たくさんの壁面を作って欲しいと言われることが多いですが、その他のスペースがないと使いづらいジムになってしまう場合もあります。待機場所もちゃんと確保しないと、居場所のないジムになってしまいますから。壁の面数や構造を調整したりして、空間を活かせるような設計をまず心がけています。

利用する人が実際にどうやって登るのか、それをイメージしないと壁は作れません。クライミング・ウォールの施工は、クライマーにしかできないと長島は強調します。

(長島)設計の段階で、傾斜の角度とか、壁の向きとかが決まるんですが、利用者が落ちた時にちゃんとマットの上に落ちるように、安全面の確保がまず重要です。また、空間的な制約の範囲で、形状としての面白さを確保することも大事です。最終的には、ホールドの置き方で決まりますけど、実際にこのポイントで、ホールドを掴んだ時の壁の見え方とかをすごく意識します。

壁の形状は、そこに設定される課題の難易度に直結します。そのクライミング・ジムの客層や、求められる難易度についても、早い段階でヒアリングを行い設計します。

(長島)お客様には見た目がかっこいい複雑な多面体形状をよく求められますが、壁の形状は複雑過ぎてもダメなんです。最近だと、大きめのハリボテを置くのが流行で。そのためには面を広く取る必要があります。複雑な形状が、ルートセットの自由度を制限してしまう場合もあります。求められる難易度で、課題設定の自由度が高いウォールを設計するのが重要です。

クライミング・ウォールが使われる場面を想像しながら、設計する時が一番楽しいと長島はいいます。一方でやりがいを感じるのは、ウォールが完成して、実際に使ってもらう時です。

(長島)自分の狙いというか、気を使った部分が報われていると、やっぱり嬉しいです。広くとった面が、有効的に使われていたり。考えぬいて設計した壁の形状に、面白い課題が設定されていたり。クライミング・ウォールの設計・施工が、クライマーにしかできないのと同じで、このやりがいも、クライマーにしか体験できないものかも知れません。

一般的なチームワークと違うのが、ホッチホールドのチーム力

長島にとって、ホッチホールドはどんな会社ですか、という質問を最後にしました。

(長島)全員がクライマーだから当たり前ですけど、クライミングに対する情熱と理解がある部分。ここは他のどの会社にも負けないと思います。まずはそこが大きな特徴で、それから…。

彼は、少し言いにくそうに続けました。

(長島)社員同士、ゆっくり話しをする機会は、実は少ないんです。みんな忙しくて、常に飛び回ってる感じで。だから僕がこういうことを言うのはちょっとおこがましいのですが…。

長島の言い回しには、遠慮と、そして同僚への敬意と配慮が入り混じっているように感じます。

(長島)個々の社員がそれぞれ考えて行動するんですけど、それがうまく噛み合っているから良いものが作れている会社です。一般的な「チームワーク」というのとは少し違う。個々の個性が突き抜けて、それが最終的なクオリティを高めているというか、チーム力につながっているような気がします。

個性の強い個人が、高いチーム力を実現できる理由について聞きました。

(長島)お客様の言うことを、一生懸命に噛み砕いて、最終的に要件を満たした良いものを作ろうという姿勢を、みんなが共通して持っているからだと思います。無茶な要望があっても、それは無理ですとは言わない。その無茶な要望の理由をきちんと聞けば、何がやりたいのかが分かるはずで、そのやりたいことを現実的な範囲で実現できるようにしたいという思いです。それぞれやり方は違っても、同じ姿勢を持っていると思います。

お客様の言う要件が、正しい形で本来の要望に結びついていないこともあるそうです。それを適切に軌道修正して、最終的に喜んでもらえるものを作りたいと言う気持ちが、個性の強いチームが力を発揮するキーになっているのです。

それぞれの努力が結集して実現するホッチホールドのチーム力。それを束ねる代表・堀地のリーダーシップもまた、チーム力の鍵なのかも知れません。