STAFF INTERVIEW

クライミングの楽しさを、つたえたい。

ウォール施工・井口 柚香

今年20歳になった井口は、高校3年生の頃にクライミングを始め、2018年からクライミングジムでスタッフのアルバイトを経験します。短大では食物科を専攻し、当初は日本料理を志望していていましたが、クライミングの楽しさを広める仕事に携わりたいと思い、自らコンタクトを取って、今年(2019年)ホッチホールドに入社しました。クライミングの面白さや仕事に対する思いについて、インタビューしました。

クライミングとの出会いはテレビ

中学生の頃テレビで見たクライミングの大会が印象的で、将来はクライミングをやりたいと強く感じたのが最初だったと井口は言います。最近ではボルダリングの人気が高く、多くの選手や大会がテレビ・雑誌で紹介されています。ただ、具体的にどのようにクライミングを始めればよいのか分からず、当時は部活も忙しかったため、「やってみたい」という思いは胸に収めたままでした。再びその思いに火がついたのは高校3年生の頃でした。

(井口)高校3年生の時に、祖母の家のテレビでまたクライミングの大会を見たんです。選手たちの体の動きや真剣な表情を見て、改めて面白そうだなと思いました。やっぱりやってみたい、どうしてもやってみたい。いますぐやってみたい。テレビを見ながらインターネットで調べてみると、自宅の近くにジムがあることが分かったんです。それでもう、その日その足で、ジムに行って入会しました。

クライミングの魅力は達成感と、課題攻略の面白さ

新座にあるクライミングジムに入会してからは、ボルダリングに熱中しました。その一番の魅力は「達成感」。自分には難しいと感じていた課題に登れた時の達成感・爽快感は、他では感じたことのないものでした。

(井口)陸上をやっていたときは、練習の成果がなかなか出ないもどかしさを感じることもありました。でも、クライミングは練習したことが分かりやすい形でレベルアップにつながる。あ、できた!登れた!こうやったらできるんだということの連続で、楽しくて仕方がなくなってしまうんです。

分かりにくい課題を攻略する楽しさもあると言います。

(井口)あれ、これどうやって登るんだろうっていう課題が好きです。ちょっとみただけでは分からないような、ネチっとした課題。やってみて、試行錯誤して、工夫してみて初めて解けるような、そういう課題を攻略するのがクライミングの楽しさでもあります。クリアできれば、技も広がる。この方法だったら、あれも出来るんじゃないかとか。やればやるほど、深みにハマるという感じです。

オリンピックで楽しみなところは、ジムでは見られない大きな動き

オリンピックで楽しみにしている選手はいますか?という質問をしてみました。

(井口)野口 啓代さんですかね。初めてテレビでクライミングに興味を持ってから、よくみていましたから。どの種目も強いし、メダルも期待できると思います。彼女を見て、クライミングを始めたいと思った人も多いと思う。そういう選手だからこそ、活躍してほしいです、応援しています。

一方で、オリンピックなどの大きな大会で設定される課題は、普段ジムで取り組んでいる課題とは違う部分があると、井口は話し始めました。

(井口)アスレチック的というか、どっかんどっかんしているというか。なんて言うんですかね、コーディネイション課題って言われるんですけど。普段私たちが取り組む課題と比べて、ルート設定の仕方に少し違う部分があるんです。

テレビで放送されるような大きな大会の場合、一般のジムにあるものとは違った特殊な課題になっていることが多いと言われます。選手の動きが、視覚的に大きくダイナミックなものになるように、設定されているからです。

(井口)誰からみても、それはすごいとわかるような。クライミングをやっている人が見るとなおさら、うわ、すごいっていう。オリンピックでもそういう課題になるのでは。普段ジムでは見られないダイナミックな動きだから、単純に面白いと思います。

先ほど聞いた「クライミングの面白さ」に関連して、オリンピックの見どころを聞いてみました。

(井口)オリンピックの場合、課題を作る人がどういう意図を持って設計したかを考えるのもきっと面白いと思います。ルートセッターの側から見ると、抜け道というか、意図しない登り方をさせないようにするのが難しいはずだと思いますが、それを選手がどうやって攻略するか。思いもよらない動きが出てきたら、やっぱり面白いでしょうね。

でも、クライミングは見るよりもやる方が、絶対におもしろいですよと、井口は付け加えました。

ウォールを作る側に回って気がついた、新しい面白さ

「クライミングの魅力を伝える仕事がしたい」と考えた井口は、自分で調べて、ホッチホールドに直接連絡をして、面接をしてもらいました。入社して3ヶ月。現在は、ウォール施工の現場でアシスタント的な仕事をしています。

(井口)覚えることばかりで、まだまだ半人前なんですが、現場の施工を見ていると「すごいな」と思うことばかりなんです。ウォールを作る側に回ってみると、登る側からは気がつかない部分にも目が向くようになる。例えばウォールの形状って、こんなに複雑なんだなって気がついたり。

ウォールは複雑な形状になってくると、3つ以上のウォール面が結合する頂点がいくつもできてくることがあります。設計の段階から角度や寸法を正確にシミュレーションしないと、こうした頂点は綺麗に収まりません。そして施工現場では、これを組み上げる緻密な技術が必要になってきます。

(井口)少しでもずれていたら、綺麗な継ぎ目にはならないんです。それを実現する技術力や、高い品質を目指すみなさんの姿勢に驚きました。勉強させていただいています。それから…。

現場の仕事を重ねていくと、気になるところがどんどんと増えていきます。

(井口)ジムに行くと、いろいろなことが気になるようになりました。例えば、せっかくオーバーオールの面があるのに、その面白さを脇にある壁面が邪魔しているなぁとか。この壁で課題の難しさを殺せちゃうなって。でもきっと、オーナーさんの意図があるんだろうなとか。いや、室内の空間的に、こうなっちゃたのかなとか。

作る側になってみて、楽しみが増えたと井口は言います。ジムの意図とか、設計者の意図。推察を元に、そのウォールの楽しみ方を考えるのが面白いのだと、楽しそうに話してくれました。

(井口)そうなると、自分が作るときはこうしよう、と思うところもある。登る人の面白さを損なわないような壁を作れるように、日々勉強。クライミングウォールは、クライマーじゃないと作れないと、改めて感じています。

クライミングの面白さを、もっと多くの人に伝えたい

これからのホッチホールドでの仕事について、意気込みを聞いてみました。

(井口)自分自身もクライミングが大好きで、大好きな人を増やしたいという思いでやっているので、お客さんが楽しく安全に使って喜んでくれることがまず第一です。

自分が施工に関わったウォールで、クライマーが楽しんでくれるのを見るのはとても嬉しく、やりがいがあると言います。

(井口)そのウォール、すごく大変だったんだよ、高い技術力が込められているんだよっていうのも、ちょっと言いたい。でも、使う人がそれと気づかないくらいちゃんと出来ていることが大事ですよね。安全性や使いやすさの面でも。気がつかない、それこそが、高い技術力の証かもしれません。

続けて、自分の仕事を通じて、クライミングがもっともっと身近な存在になってほしいと話しました。

(井口)日本ではアメリカのように実際の岩場に行く機会は少ないので、ジムがもっと増えれば良いと思います。一人だと初めにくいスポーツでもあります。ちょっとジムに入りにくというか、初めの一歩がやっぱり大事なんです。入りやすい・始めやすいジムが増えてくれると嬉しいですね。雰囲気やコミュニケーションとか。そういうクライミングジムが増えて行くようにお手伝いができれば、嬉しいです。

入社して3ヶ月のホッチホールドは、どんな会社ですかという質問には、以下のように答えてくれました。

(井口)個性が強い会社だと思います。会社も社長も社員のみなさんも。「ここは譲れないぞ」というものを全員が持っているなと感じます。この部分の、この品質だけは譲れない。いくら合理的であっても、そのやり方だけは許さない。どんなに忙しくても、今度の休みだけは譲らない。みたいな(笑)。みなさんの「ここは譲れない」というこだわりが正しい方向に集まって、良いものができる。そういう文化を持っている会社だと思います。

現在最年少の井口に、数年後もし後輩が入ってくるとしたら、どんな人に来てほしいですかと聞いてみました。

(井口)クライミングをやっている人。もっとクライミングを楽しみたい人、もっと好きになりたい人に是非。私がそうであるように、作る側になってみると新しい楽しみも増えますから。一緒に楽しみながら仕事ができたら嬉しいです。

「クライミングの面白さを、もっと多くの人に伝えたい」という井口の思いは、これからのホッチホールドを支える原動力になりそうです。